長年病院暮らしのエカピリオが、くだらない話をします。



筋ジストロフィー症、そこそこのお歳です。



※「ピリオ」命名:白黒音夢さん


2010年10月12日火曜日

ヒーローたるもの

妄想シリーズ その4

夢枕に突如、神様が現れて私にこういった。
「そなたを第12,785代、ヒーローに任命する」神様はさらに続けた。「世のため人のため、ヒーローとしてしっかり邁進するように。なお…」…沢山のことを言われたが、もう覚えていない。私は知らぬ間に目覚めていた。手元には何やらメモらしきものがあり、次のように書かれていた。

あなたの長所に神がかり的な力が発揮されるでしょう。
やり方は自由。あなたが描くあなたらしいヒーローになってださい。

あなたらしさ?そんなこと言われても、筋ジストロフィー症の私がどうして悪と戦えよう。キックもビームも出せやしない。明らかに神様のミスだろうが、私は本日をもってヒーローとなってしまった。
メモには続きがあった。

ヒーロー必須事項
ヒーローネーム(本名可)
口上(天下御免の向こう傷、は殿堂入りのため不可)
フィニッシュブロー(複数所持可。特殊メカ要相談)
初任務【受験生のタロウ君救済】(変更不可)
その他情報【ヨシダ看護師の息子】

この通りに考えないとならないらしい。
まずは本人に会う。タロウ君は福祉関係に興味があることもあり、母ヨシダさんの計らいですぐにあうことが出来た。いきなりヒーローを名乗っても意味不明なので人間観察に終始し、彼を帰した。彼はとてもまじめな少年だが、少々頭が固くて融通の利かないタイプといったところか。
何をしたらいいかわからぬまま、数ヶ月が過ぎた。受験の日は刻々と近づいている。とりあえず、必須事項はなんとか考えたが、口上は恥ずかしいのでこっそり練習しなきゃならない。フィニッシュブローも三日前ぐらいに、こっそりクモにかけてみたが何も起こらない。ここぞという時にしか力は出せないようだ。もう時間はないので、見切り発車ではあるが、タロウ君を病棟の多目的ホールへ呼び出した。

勉強、勉強のためか彼は苛立っていた。私を見るなり、「ピリオさんには悪いけど、勉強する時間がもったいない。早く用件を言ってくれないかな。」と言われた。
「時間は取らせないから。ちょっとそこに座って。」と私。今だ!!

「苦節36年、空の玄関が産んだ、すこぶる輝く光の戦士!! エカピリオ・ハイパーエックスとはおれのことだ!! タロウ君の将来のため、福祉の志を守るため、受験という未来への固い扉をいざ、打ち砕かん!!」

タロウ君は口を開けている。…でも、こっちだってもう後へは引けないのだ。続ける。

「エクスプロージョン・ギャラクティカ・フラッチュ!?」

GLAYのテルばりに手を広げて、派手に決まったかに見えたが、肝心なフィニッシュブローを噛んでしまった!!しかも一番言いやすい、フラッシュを。気づかれたかな?やりなおすか。どうするか。そんな心配は一瞬にして消えた。

「バカにするな!! 障害者だからって調子に乗りやがって!! こっちは遊んでる暇なんか無いんだ!! もう金輪際おれにかかわるな!!」
…彼はすごい剣幕で去っていった。そりゃそうなるか…。セリフを噛んだせいかはわからないが、見た目にも変化はなく、脳が活性された風でもない。失敗だろうか?……ともあれ、こうして初任務は幕を閉じた。
…一ヶ月後、彼は第一志望のT大をトップでパスしたと母ヨシダさんから聞いた。私の技が効いたのかどうか、それは神様にしかわからないことなのかもしれない。でも、次の任務の通知が来たことからすれば、あながち無効果でもなさそうだ。私が思うに現代の諸悪事情は、一辺倒の単純悪ではなく、競争社会が産み出したストレスだったり、出世欲や物欲にまみれた人間のドロドロした目に見えないものなんじゃないだろうか。…人々が心に抱える闇を葬るため、エカピリオ・ハイパーエックスは今日も戦い続ける…
…ちなみに次の任務は、同じ病棟の患者さんでカミナリ嫌いのライゾウさんを克服させることである。釈然としないけど…おわり

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